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学生のみなさんへ

量子力学は不思議である。──デンマークの物理学者ニールス・ボーアの名言に、「もし初めて量子力学を学んだ時に何の疑問も抱かないのなら、それは量子力学について何も理解していないという事だ。」とあるように、それはすぐには信じられない、直感に反する現象を数多く説明する。近年、これらの非常に奇妙な性質を用いることで、量子暗号を用いた絶対に安全な通信やテレポーテーション、デンスコーディングといった従来の古典情報処理では不可能な情報処理を実行できるようになることがわかってきた。量子情報処理とはこれらの情報処理の総称のことである。

量子情報処理を可能にした鍵はここ20年における「情報は物理である」という新しい認識にある。すなわち、情報の流れを表す法則や方程式は、情報の担い手となる系の物理によるという事実である。例えば、今、2人の人間が光を用いてモールス信号で通信をしているとしよう。もし、通常の古典光の代わりに原子からの単一光子の放出を用いると、通信はたちまちおかしくなり、働かなくなってしまうだろう。しかし、驚くべきことに量子情報処理は、量子力学に見る不思議な性質が逆に利点となり実行可能となっているのである。

量子情報に多大な貢献している主要な量子効果としてエンタングルメントがある。アインシュタインにより「遠距離間の不気味な作用」と呼ばれたエンタングルメントこそが、本研究室で我々が中心的に扱っているテーマであり、さらに我々は様々な角度からその量子情報処理におけるエンタングルメント役割も研究している。以下に我々の主要な仕事を示す。

LOCCによる操作制限下の情報処理
今、量子系が幾つかの別々の空間的に離れている系からなっているとする、例えば各々の系が異なる実験室にあると考えてもよい。この時、もし我々は同じ場所(実験室)にある系にしか操作をすることができないとすると、我々の操作は制限を受けることになる。

たとえ各々の系の間に古典的な通信を許したとしても、つまり、実験室の間がインターネットや電話でつながっていたとしても、やはり我々の操作は系が一つの場所(実験室)にあるとしたときに比べて制限を受ける。

以上のような状況はLOCC(局所的量子操作と古典的通信)と呼ばれ、量子情報理論において鍵を握る概念となっている。「LOCCで不増の量」という量子状態のエンタングルメント定義の中にLOCCは用いられるが、さらにLOCCは量子暗号で我々が普通考える状況を示してもいる。この場合、空間的に離れた実験室の変わりに空間的に離れた銀行を考え、その間の重要な秘密情報をいかに通信するかを考えることになる。

数学的にLOCCを完全に特徴付けるのは非常に煩雑であるため、我々が今考えたい状況に絞ってLOCCによる制限の特徴づけをすることがしばしばある。本研究室では、LOCCの条件が実行可能な観測にどのような制限を与えるかを研究している。観測とは、量子状態を古典情報に変換する方法であり、量子状態の「デコード」の仕方でもある。すなわち観測は、量子状態から情報を読み出すために、多くの量子情報処理において必要不可欠なのである。故に観測のLOCCによる制限を研究することは、量子力学における局所性の研究という意味で重要なだけではなく、多者間ネットワークを考えるときに本質的に重要になってくる。

本研究室では、LOCC観測については特にLOCC状態識別とLOCC状態複製に取り組んでいる。ここでLOCC状態識別とは、与えられた候補の中から未知状態をLOCC観測により識別することであり、LOCC状態複製とは、候補が与えられた未知状態を最適に複製することである。これらの問題は非常に大きな一般性を保持しており、単なる局所性の研究という意味だけでなく、様々な量子情報処理との密接な関係性を持つ。最近、我々は、LOCC観測によって状態がどれだけ識別できるかということにエンタングルメントが定量的な限界を与えることを示した。我々は局所的状態複製がどのようなときに可能でどのようなときに不可能かということの例を示し、またその局所的識別との関係性を明らかにした。我々は、LOCCが観測やその他の量子操作に与える制限の研究を続け、さらにはその研究を元に新しい量子情報プロトコルの提案をもめざすつもりである。

[1] M. Hayashi, D. Markham, M. Murao, M. Owari, S. Virmani, Phys. Rev. Lett. 96 (2006), 040501
[2]M. Owari and M. Hayashi, quant-ph/0509062

エンタングルメント
エンタングルメントは量子情報に必要不可欠なリソースであり。さらに近年、その固体物理系とその臨界現象において重要な役割を持つことも明らかになってきている。

無限次元系には、有限次元系には存在しない特有の巧妙さがあり、エンタングルメントもやはり奇妙な振る舞いを見せる。我々は、エンタングルメントにおける次元の効果に注目した。すなわち、無限次元がエンタングルメントの構造にどのような有限次元との違いをもたらすかを調べ[3]、またその無限次元特有の巧妙さをどのようにエンタングルメントの生成と制御に使えるかを研究した[4]。

多粒子系の場合もやはりエンタングルメント理論は通常の2粒子系の場合よりも複雑になる。エンタングルメントの型が一通りに決まらず、エンタングルメント量を定義すること自体が難しくなることさえある。我々は多粒子系のエンタングルメントの研究を行い、さらにその量子情報処理への応用の研究も行っている。

[3] M. Owari, K. Matsumoto and M. Murao, quant-ph/0406141
[4] D. Markham, M. Murao and V. Vedral, Phys. Rev. A 70 (2003), 062312

一方向量子計算
量子計算機は、因数分解などの問題を従来の計算機よりも指数関数的に早く解くことができる程の高い能力を持つと予見されている。量子計算が多くの注目を集めるようになったのは、まさにこの点であり、すなわち現代のインターネットの安全性の根幹を担っている因数分解を瞬く間に解いてしまうことは、現代の多くの暗号の安全性を覆してしまうことに他ならないからである。(ちなみに、このことは逆に物理法則による絶対的安全性を保障する量子暗号をいっそう重要にしている。)

量子計算機の構築には様々な障害があるが、そのうちの主な一つとして量子系の過敏さがある。我々が量子計算に用いようとする系は常に環境系と相互作用しており、この相互作用が量子状態を壊してしまい、計算の実行を不能にするのである(この効果をデコヒーレンスと呼ぶ)。

この問題の対抗する一つの方策は、計算過程において常に量子状態を保持する代わりに、状態を早々に測定してしまうのである。観測の不可逆性は計算をも不可逆にしてしまうので、この方法は一方向量子計算と呼ばれる。

一方向量子計算と通常のユニタリー変換による量子計算の違いは現状では厳密には示されていないが、それを明らかにするために、我々は一方向量子計算を可能にしている条件を厳密に求めることをめざし、また、系のエンタングルメントや他の関係した問題についても研究している。

物理の中のエンタングルメント
ここ数年、エンタングルメントの量子情報におけるだけでなく、一般的な物理現象における重要性が明らかになってきている。多粒子系エンタングルメントは凝縮系の多くの基底状態に存在し、また、固体物理の臨界現象に関係していることもわかっている。さらには、高エネルギー物理の自発的対象性の破れとの関連も指摘されている。

これらの近年の発見は、以上のような物理系の中でのエンタングルメントの存在比率や、臨界現象におけるエンタングルメントの役割といった大量の新しい問題を作り出した。本研究室では、熱力学的平衡状態にある系におけるエンタングルメントの存在比率や、上記の問題やさらにそれに関係した問題の研究を行っている。

これらの研究の更なる詳細については、「研究紹介」を参照されたし。

Last updated 07 April 2006.

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